青の3sec.
 


   雨のハイウェイとヘッドライトが瞳孔を開閉させる。


   アクセルをぐい、と踏み込む。
   その瞬間、エンジンは唸りをあげ、いくらかするとギアが変わり、
   自慢のロータリイは安心したように穏やかになった。



   また遅刻だ、と僕は呟き、ハンドルを軽く左に回す。
   それもこれも、全ては左手に彼女を見るためだ。
   最悪のエピローグが始まるのは、もうすぐだ。


   靴底は濡れていて、ブレーキペダルからはきゅ、きゅ、と滑稽な音
   が聞こえた。



   そうだ、何度だって出会える。


   そんな言葉が頭の中を反芻していた。


   カラシニコフの発砲音のようなものが耳をつんざいた。
   哀しい、寂しい、と言ったら終わり。



   最初から、分かっていた。分かっていたつもりでいた。




   僕が星になって、君は朝になる。




   一秒でも早く、君の街へ。
   それも、情緒不安定の理由かとも思える。


   pm11:00。


   BPM155。


   半透明のスピイドの先へ、僕は向かってゆく。




   心は穏やかであった。


   分かっていた。


   青の向こうへ、僕は向かってゆく。


   3sec.のスピイドの先へ、僕は向かってゆく。




   彼女はこんな僕でも待ってくれているのだろうか。


   はは、と渇いた笑いが僕の口の端から溢れる。




   きっと、嘘をついた僕に対する罪と罰。



   pm11:22。


   BPM90。




   長い帯のように伸びてゆくテールランプを、ただ見ている事しかで
   きない。




   僕は星になって、君は朝になる。




   始まる、最悪のエピローグ。


   或いはプロローグなのかも知れない。
   どちらにしろ、最悪だ。




   この夜が明ければ、この夜が明ければ。
   全てが始まる。




   背中には嘘つきテレキャスター。
   切れた二弦が脊椎を覆う。




   そして君は僕に駆け寄り、耳元で叫ぶんだ。




   バカみたい。私ひとりだけ。




   青から赤に変わるスピイド、体は二十一グラム軽くなる。




   僕は結局二十一円の価値でしか無かったのか、とまた笑う。




   銀色の流線形が僕の脇腹にいくつかあった。






   何年かぶりに帰った街は、全てが変わっていて。


   みんなで遊んだ川は埋め立てられ、カブトエビを捕まえた田んぼは
   ビルになり。


   虫捕りをした公園は幼稚園に。


   通っていた小学校は木造から鉄筋コンクリイトの打ちっ放しに。


   ババ屋の夫婦はこの世からいなくなり。


   強くて大きくて誇りだった父は小さく、細くなり。


   犬のハナは首輪だけをを残したまま消え。




   君は朝になった。




   それが何故か無性にさみしく感じたが。


   二十一円ならこんなものか、と僕は青の向こうへと、向かう。




   できる事ならもう一度。




   またいつか出会えたなら、もう一度二人を始めよう。




   誰も知らない世界の裏側で。




   青の、向こうで。



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