ひとりごと
 


    僕の推論が正しければ、君はn+1次元の存在だ。勿論、僕が存在しているの
   がn次元だという仮定を踏まえてね。

     僕は君の事を認識できないんだ。僕が論じてる事全て、確信も確証も、確か
   める術すらも無い。だから推論だけを述べていこうと思う。

     君の、――今は便宜上祐介と呼ぶけれど、今までの祐介の言動には沢山の不
   自然が見受けられた。でも、今まで僕は只の考え過ぎだと思っていたんだ。で
   もね、一(ニノマエ)の一件で僕は確信したんだよ。

     君は僕が認識できる次元、つまりn次元よりひとつ上の次元に存在している
   んだ。そこでは流れ続ける時間を塞き止めたり、逆行させたりできる。当然、
   その姿は僕には認識できない。僕だけじゃあない。このn次元の住人総てから
   認識されないんだ。

     君はn次元の色んな人の心を覗きながら、今を過ごしてきた。時には由香里
   だったり、時には一であったり、絢子、ヒロユキにいちゃん、桔平、コウタ。

     この辺りで僕の疑問は大きくなった。なぜ祐介が昔のババ屋での出来事を知
   っていたのか。なぜヒロユキにいちゃんが自殺した事を知っていたのか。どち
   らも君のデータには無いはずだ。
    答えは簡単だ。
    色んなページでその人たち本人になっていたからなんだ。さながら銀河鉄道
   の夜だね。もしかすると思い残し切符のような何かを眺めていたのかも知れな
   い。感慨深そうに列車を眺めていたのも、そのせいなのかな。

     祐介、という概念は存在しても、事象は存在しない。言うなればピーターパ
   ンみたいなものだ。

    例えば、僕が本を開くと僕自身がピーターパンになる。本の中をn次元とす
   ると、その中の住人からすると僕はn+1次元のものだからだ。ぱらぱらと時間
   を逆行させたり、色んな人の心を覗く事が出来る。

     君は僕たちに対して、同じ事をしたまでの事だ。そう考えると何も不思議な
   事じゃあない。
    あくまでもこれは僕の推測だけど、もしかすると君が祐介の時は自分の事を
   三人称で呼んでたんじゃあない? もしそうなら、それがこの世界の秘密で、
   僕の論じている事柄は概ね間違ってはいないと思う。

     君は自分が好きなように時間を動かす事が出来るんだよね。だから、変に昔
   の事を憶えていたり、知らないはずの出来事も知っていたりする。現時点では
   知り得ない事も知っていたりする。不自然なんだ。

     僕たちはしばしばそれを神と呼ぶ。
    昔から言われていたよね。偶然とは必然であり、全ては神が仕組んだ事象を
   消化しているだけ。

     祐介は祐介であって、祐介でない。
    僕はそんな結論に行き着いたんだ。
    自分では間違っているとも思わないし、間違っているかも知れない。
    n次元にいる僕たちには答えは到底知り得ない。
    哲学、みたいなもんだよね。

     でもきっと、それもひとつの可能性だと思うんだ。まぁ仮定はあくまでも仮
   定、なんだけどさ。

     この世界は神様の箱庭だ、なんて考えた事は無いかい?
    僕は眠りにつく前にそんな事をよく考えるんだ。
    そうすると、その箱庭が壊れた時、または異端分子が生まれた時。
    僕たちはどうなるのかな。

     ずっと子どもでいられる世界を作ってくれたピーターパン。
    君はどう思うかい?

     言ってみても無駄だろうね。君が「こうしたい」と思った世界になっていく
   のだものね。

     神様、どうか僕たちを許して下さい。

     自由である事を、子どもでいる事を望んだ僕たちを、どうか、どうか。



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