コトノハ 桔平
 


   次、おれ?

   まだ絢子のが聞きたいよ。

   まじかよー……。

   何だよ。



   じゃあ、その意見を汲もっか。

   いや、汲むの。

   悪かった悪かった。分かりやすく伝えるよ。
   で、何だったっけ。



   偶然、行われたにしては出来すぎじゃないか?

   でもその証拠は?  どこにあるんだ?

   あったとしても、周囲は納得するのか?

   あのままの、優しい由香里じゃなくなったんだぞ。一人称も僕にな
   ってるようだし。

   何故あいつは生きていられるんだ? 認められているんだ?

   そんなこと、可能なのか?

   あの頃……俺らいくつだったっけ。

   そんなに小さかったか?

   もう由香里は由香里じゃねーのかなぁ。

   会って見ないとわからん。

   怒んなよ。

   じゃあ言うけどさ、お前も理論的に結果論を淡々と述べてるけどさ。

   悪いとは思わないのかよ。

   別に別にってよぉ。逃げてんのはお前じゃねーのか?あぁ?

   おぉ、こわいこわい。患者に優しい絢子さんはどこへ行ったのかな?

   医務室かな?


   コウタも、変わらないまま死んじまったしなぁ。

   何か言ってたか?

   そんなにひどかったのか。

   ゲロ吐いたヤツいた?

   そうやって?

   悪い癖でな。

   何て?

   あー……。

   いや心当たりっつーか、あいつ、もうすぐ父親になるはずだったん
   だよ。

   青の向こうは白なんだってよ。真っ白の状態で赤ん坊抱かねぇと、
   一生顔向け出来ねぇだろって真っ赤になりながら言ってた。

   それがさ。不思議な話で、コウタの心臓が止まった瞬間に、陣痛が
   来たらしいんだよ。玲子さん。

   ああ、コウタのお嫁さん。

   あの子供は手を焼くぞ。

   で、ヒロユキにいちゃんの方はどうだよ。

   まぁーた難儀なことになっちまったなぁあいつも。

   まぁ、そのうち元気にともだちんことかするんだろうけどさ。

   あー、はいはい。後で吸うわ。

   うーん、おれは正直なところヒロユキにいちゃんもコウタも守って
   くれてたからなぁ。
   無事に高卒フリーター真っ最中ー。


   良いんだよ。世間体なんてゆーへのつっぱりはいらんですわ。

   由香里なぁ。

   うーん、確かそうだったような……。

   ほう。いいことじゃん。

   そりゃ、だめじゃん。


   まぁ、住所ももらってんだろ?

   名前は?

   ホンモノのドロップになっちゃった。

   え、二時。うわっ。

   そんなところは変わってねぇんだなぁ。

   なぁ一回さ、戸籍見てみようぜ。もしかしたら替えてるかも知らね
   ーし。


   おーお見事。

   あー、はいはい、待って待って。


 ○


   うわぁー! 社会人の余裕!

   怖えー! 怖えよー! コウター!

   騙された……。

   最近って……普通のマクドナルドアルバイターだよ。

   七百六十円。

   やだよ! 俺だって夢があるんだ!

   その呼び名は止めてくれよ。
   いつかウルトラマンみたいなでっけぇヒーローになるんだ!

   いや、マジで。

   いや、ウルトラマンじゃなくてもいい。一人の心でも、俺がその子
   の心のスキマをお埋めしたら、それはヒーローでしょ。

   ……まぁとにかく夢はでかく、な!

   なんだよ。

   まぁ、そのままだろうな。





   営業スマイルか。

   こえー! 社会人こえーよー! ヒロユキにいちゃーん!







   ……なぁ、絢子。

   あの名前って。

   マジかよ……。

   コウタの墓参りもな。




   ――さぁて、煙草でも吸うかな。




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